釜ノ沢東俣乙女の沢アイスクライミング(16年02月06日~16年02月07日)

 

「しっかり準備して良い結果が出せるよう次に臨みたい」

 スポーツ選手が試合後のインタビューでよく口にする言葉ですが、2月6・7日に1泊2日で西沢渓谷釜ノ沢東俣の冬季遡行に出かけたK&Tにとっても、この言葉がふさわしい山行になりました(ホンマか)。

○2月7日(土) 晴れ

 東京を6時30分出発予定で集合したものの、Kの忘れ物を取りに戻ったので西沢渓谷駐車場に到着したのは9時20分頃。身支度を整えて歩き始めると、今度はTが忘れ物に思い出して再び車で買い物へ。結局、駐車場から歩き出したのは10時過ぎだった。西沢山荘、西沢渓谷遊歩道と通過し、二俣吊り橋(ステンレス製で滑りやすい)を渡ると「西沢渓谷の看板」とベンチが2つある東沢分岐に着く。ここで遊歩道を離れて東沢の河原に向かう(ここまで30分ほど)

4東沢へ

 

 河原を進むと最初の渡渉ポイントが現れ、渡渉後は左岸沿いを遡上する。赤布に加え、トレースがしっかりあるので迷うことはない。途中から高巻く道を進むが、これがシンドイ。足場が細く悪いだけなら、さほど難渋しないが、グダグダの道を登ったり下ったりしながら−−−−−倒木をくぐったり

7倒木潜る

攀じ登ったり 

8よじ登る

出っ張った岩肌に注意して中腰で通過したり、擦り切れそうなトラロープのぶら下がった所をクライムダウンしたり……。これを何度も繰り返すので息はあがり気味。

 

 そんな道程を進んで「ホラノ貝ゴルジュ」を過ぎ、しばらくすると「山の神」に到着(東俣入口から1時間ほど)。

9山ノ神

 

 山の神から少し行くと再び川沿いの遡行に戻る。渡渉を何度かしながら1時間ほど歩くと右岸に「乙女の滝」が現れる。この日は別パーティーが1組。暖冬の影響が懸念されたが、滝はがっちり凍っている。ただ、今回の目的は東俣遡行。翌日に甲武信ヶ岳まで行くことを考えると、なるべく進んでおきたい。この時点で13時。遊びたい気持ちを抑えて横目に見ながら先を急いだ。

10乙女の滝

 

 1日目は、釜ノ沢に入って「魚留の滝」か「両門ノ滝」の先まで進んでテン泊(あわよくばヤゲン滝・大滝を超えた広河原)を考えていた。けれど、その目論見は乙女の滝を後にしてすぐ不安におおわれる。乙女の滝から先はトレースがないのだ。雪が積もったゴーロを動物の足跡を参考にルートファインディングして進み、渡渉ポイントを探しては戻る。薄かったり、滑りやすかったりする氷に静荷重で慎重に乗り込み、重心が移動した瞬間に対岸へ素早く逆足を出す。アイゼンを着けていれば安心感は少し違ったのかもしれない。なにはともあれ、改めてトレースのありがたさを実感した。

11大また開き

 

 渡渉を何度か繰り返しながら「東のナメ沢」、「西のナメ沢」を過ぎ、釜ノ沢手前(写真)に着く。時計を見ると14時50分。沢登りなら1時間強の行程に、2倍の時間を要していた。陽は長くなっているとはいえ、この先もトレースがない行程が続き、ペースアップは見込めな。時間切れと判断して計画を乙女の沢でのアイスクライミングに変更。東のナメ沢付近でのテン泊を決めて来た道を戻った。

12釜ノ沢出会い手前

 

 目的地に到着し、テントを張り、水を汲み、枯れ木を拾い、17時頃に焚き火スタート。風はなく、雪山で焚き火だなんて……悪天候だった同日程の谷川岳チームには申し訳ないほど快適すぎた(笑)。枝に刺して焼いたウインナーと笹かま(表面はパリパリ、中はジューシー)をつまみに酒を飲み、計画の甘さも反省。次回は前夜発にし、駐車場を3、4時間早めに出ようと決めた。炎を眺めながら食べた夕飯のキムチ鍋で体はさらに温まり、焚き火が燃え尽きたところで宴会はお開き。

DSC00125

17笹かま

15暖をとる

 

○2月8日(日) 晴れ

 翌日は強い風の音で目覚めたが、太陽が昇ると風はやみ、雲ひとつない空が広がっていた。朝飯を済ませ、テントをたたんで、乙女の沢に向けて8時前に出発。

19朝日

 

 左岸の樹林帯で準備を整えて、荷物をデポし、50mの乙女の滝に取り付く。下部も雪に埋まっていない面をKのリードで登攀開始。2/3を過ぎたあたりで「ふくらはぎが痛い!」の声が響く。垂直の氷壁なら段差などで、ふくらはぎを休ませたりできるが、乙女の沢は緩い傾斜があるために常に爪先立ちの状態が続く。登り切るまでフル稼働だ。50mロープいっぱいを使って右岸の立木で支点を作る。フォローのTも瞬く間にふくらはぎが痛みだしてペースは上がらない。どうにか登り切ると、しばらく苦痛に顔を歪めていた。

26登攀中

 

 続く3mほどの小滝はロープを出さずにサクッと登り、次に控える4段60mは中間点でビレー。この日は対岸の日当たりが、恨めしく見えないほど暖かい。

29中間ビレー点60m

30対岸

 

本日のメインディッシュは80mの大滝。ふくらはぎはパンパンなのでやめてもよかったが、“もったいないオバケ”が出そうなので完食することに。見上げると傾斜はゆるいが、登り始めると感じられなくなる。ふくらはぎの痛みで休みを挟むよりも、我慢しながらさっさと登った方が結果的に楽なので、休まずにひたすらアックスを振り、アイゼンを蹴りこむ。右壁より40m付近でピッチを切った。

31大滝80m

32中間ビレー点から

 

 大滝を登り切って30分ほど休憩を取り、13時30分に懸垂下降を開始。大滝は左岸の立木を使った。今回、50mロープ1本しかないのでの最大25mの懸垂を繰り返さなければならず適当な懸垂点を探しながらで時間が掛かる。2ピッチ目の懸垂点(写真)は、抜けないことを確認したとはいえ、幹が細いので慎重に降りる。乙女の滝は右岸の立木に残置スリングとカラビナの支点がある。懸垂下降を終えて、登攀装備とアイゼンを外して下山開始。日が沈む前に最後の渡渉ができるようにグダグダの高巻き道を歩く。まだ明るい17時過ぎに最後の渡渉を終え、18時に駐車場に戻り、帰京の途に。

 当初の「全装で甲武信ヶ岳まで」はならなかったものの、途中でピッチを切るような長い滝でのアイスクライミングの機会は多くないので、存分に雪山を堪能できて結果オーライ。ただ、それはそれ。今回の山行が、いい準備をするために必要な情報と経験を得たと言えるよう次に生かしたい(タブンね)。

37懸垂二回目の懸垂点

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